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【ポーランド】シェチェチンに行きました【くいだおれ旅行】

別にポーランドに行きたかったわけじゃない。ただどこかに行きたかった。

ベルリンに住んでいたので、ポーランドには簡単に行くことができた。手軽さとバスの賃料の安さに惹かれて、僕はすぐに旅行を決意した。友達を一人誘い、旅の日程を決め、そしてすぐにFlixbusのサイトからチケットを予約した。

旅行は日帰りにすることにした。なぜなら目的地がシェチェチンという名前も聞いたことのない町で、それほど見るものはないだろうと踏んだからだ。

日帰りという判断はおおむね正解だった。僕はいつも日程を取りすぎてしまう。余分に日程を取って、旅先で時間を持て余すことがこれまでに何度もあった。足りないくらいが丁度いい。

この旅行には目的が三つあった。まず第一に、海外旅行にいったという事実を作ること。第二に、ポーランドの料理を堪能すること。特にピエロギ。そして最後に、世界にはいろんな場所があって、いろんな人がいるというあたりまえの事実を確認すること。それだけ達成できれば十分だった。

 

当日の朝7時に起床し、軽く朝食を取り、コーヒーを飲み、そして朝の準備をした。黒いスキニー・ジーンズをはき、無地のグレイのシャツに薄手の黒いカーディガンをはおった。バックパックにカメラだけ入れて背負う。少し迷って黒くて大きいハットもかぶった。スキニーを少しロールアップして、8ホールのドクターマーチンをはいて、家の前にあるトラム乗り場へ向かった。

天気は申し分なかった。美しい5月のベルリンの陽光に目を細めながらトラムにのり、最寄りのリング・バーンまで行く。そこで電車に乗り、西側にあるMesse Nord/ICCへ向かう。リング・バーンは東から西へ放物線を描いてベルリンを横断する。

友達とバス停のある場所で集合し、9:15分発のバスに乗り、シェチェチンへ出発した。社内では友達と他愛のない話をしながら時間を潰した。なにを話したのか今ではひとつも覚えていない。その移動で唯一覚えているのは、バスがポーランドに近づくにつれて、周りの景色が少し荒涼としはじめた事、そして国境沿いに数台の戦車を見た事だけだ。少し長めの長編映画くらいの移動時間で、バスは目的の町に着いた。

バスはシェチェチンの駅の前で止まった。外に出てみる。日差しはやわらかく、気温はベルリンとほとんど変わらないくらいだ。

シェチェチンに到着したものの、この町についてほとんどなにも知らなかった。シェチェチンは港町で、バルト海に面している。知っていることはそれでほとんど全部だった。調べたのはレストランくらいだ。

駅から出て、周りの景色を見ながらレストランにある方向に適当に向かった。赤いレンガでできた建物が目を引く。途中でキオスクを見つけたので、中に入った。店内に入ると、レジの後ろにアルコール度数の高い酒類が並べられているのが目に入る。他の棚にはヨーロッパならどこでも買えるお菓子やポーランドのスナック類がところ狭しと並べられている。

僕はヨーグルト・ドリンクが飲みたかった。ヨーロッパの旅行といえば地元のスーパーで買うのヨーグルト・ドリンクだ。僕はクーラーがある棚のところに行って、数種類のヨーグルト・ドリンクを見つける。まずどこでも買えるインターナショナルな商品は即除外し、その中で一番ポーランドらしいものを手に取る。レジに持っていく。ポーランドのお金をはじめて使うのでわくわくする。レジの店員がバーコードを読み取ろうとするが、うまく認識できない。何度も挑戦するもののバーコードは読み取れない。店員はあきらめて、これは買えないよと僕に伝える。

かくしてポーランドではじめての買い物は失敗に終わった。お金はあったし、商品もそこにある。僕は欲しかったし、店員は売りたい。でもそれだけでは買い物が成立しない。現代社会の辛酸こんなところで舐めることになろうとは。

それでもあきらめきれない僕は別の店を探してヨーグルト・ドリンクを買った。その店をでるとすぐにフタをあけ、ひとくち飲んだ。選んだフレーバーはベリー系のミックスだ。甘くクリーミーな味とベリーの酸味が口のなかに広がる。味はほぼ予想通りで、ヨーグルト・ドリンクらしいヨーグルト・ドリンクだった。そうですよね、これがヨーグルト・ドリンクですよね、という味だ。なんの変哲もない。それだけ確認して僕は非常に満足した気分になった。

満足した心持ちもまま店の前の坂を登って歩くと少し大きな道路にあたる。iPhoneGoogle mapを開き、現在地を確認し、正しい方向に道を曲がった。大きな通りの中央はトラムの線路があり、左右には道路がある。まわりにある看板や広告はポーランド語で書かれている。それを見てやっと外国に来たという気分になった。

そのまま周りの町並みを満喫しながらレストランへと足を進めた。目的のレストランに到着し、店の中に入った。広い店内に大きなテーブルがいくつもあった。店には家族連れが一組、二組がいる程度で空いている。テラスにも席がいくつかある。

僕はウェイターへ窓際の席が良いと伝え、日当たりの良い席を確保した。席に座りメニューを開くとポーランドの伝統料理がずらりと並んでいる。ウォッカだけで一ページ全て使っているのがポーランドらしい。メニューに写真がなかったので、ウェイターにおすすめや料理の量を尋ねた。

料理のサイズは基本的に多めなので、一度にたくさん注文するよりも少しずつ頼んで二人で分けながら食べるのがよい、とウェイターが言った。僕達は店員のすすめで、前菜にきのこのクリームスープを。メインにはポーランドのロール・キャベツと念願のピエロギを注文した。飲み物はシェチェチンに醸造所があるBosmanというペール・ラガーを頼んだ。

まずラガーが来て僕達は乾杯をした。冷えたラガーが喉を通る。天気はよくて、これから春がくる。目の前にはまだ半分以上入っているビールがあって、これからランチが運ばれてくる。とてもリラックスした幸せな時間だ。ヨーロッパではそういう時間はごく普通にありふれている。そしてそれはちょっとした努力で手に入れることができる。ロンドンのパブで昼から友達と飲むギネスのパイント、スペインのバルでつまみを食べながら太陽のもとで飲む小さいグラスにはいったビール、ベルリンの公園でケバブを食べながら瓶のまま飲むピルスナー。そういう時間がちょっと手を伸ばせば簡単に手に入る。こういうリラックスした時間がヨーロッパにはあふれている。

しばらく待ち、まず前菜のスープがきた。きのこのクリーム・スープは絶品だった。スープにきのこのうまみがでていて、あまみのある濃厚なクリームと非常によく合う。そしてもう少ししてからメインの料理が運ばれてくる。トマトベースのソースがたっぷりとかかりその上にきざまれた香草が乗せてあるロール・キャベツに、たまねぎとひきにくのあえものがかかったピエロギだ。ピエロギは餃子のようなものだが、生地はこちらの方がいくぶん分厚くてもちもちしている。つるりとして食べやすいが生地が厚く、中にひき肉がたっぷり詰まっているのでなかなか食べごたえがある。ビールとの相性もなかなかいい。友達とくだらない話をしながら料理を堪能した。とてもおいしかったし、なにより安かった。

食事のあと僕らはどこへいくともなくぶらぶらと歩き始めた。観光案内の看板を見つけ、なんとなくその方向へ歩みをすすめる。途中で見つけたアイスクリーム屋さんでアイスを買う。ベリー系とヨーグルトをダブルでワッフルのコーンで注文する。それを食べながら通りを歩く。また適当に見つけたアンティーク屋さんに入って、古い家具や絵画を勝手に品定めする。

歩いていると歩行者だけが通れる大きな通りに入った。左右に道路があり、その真ん中にその大きな通りがある。その通りにはカフェやレストランやビアガーデンがある。そのまま通りに沿って歩いていく。すると壁がすべてエメラルド・グリーンの建物が目の前に現れた。きれいなグリーンに塗られた壁に白い窓枠と金の装飾が付いている。なかなか見栄えする綺麗な建物だった。よく見てみるとどうやら役所のようだ。ちょうどトイレに行きたかったこともあり、中に入り用を足した。中に入ると、しんとしていて、空気はひんやりとしている。外見の新しさに比べ、内装や階段のすり減り具合を見る限り、建てられてから相当な年月が経っているようだった。でもヨーロッパの建物は古くてもさびれた感じがあまりしない。古くても雰囲気が良い。日本の雑居ビルや古いアパートメントのようないやな感じがまるでしない。日本の古いビルは錆び付いていて、湿っぽくてなんだかいやな気分になるけれど、ヨーロッパの古い建物はなぜか安心できる。

市庁舎を後にし、住宅街をぶらぶらと歩く。ポーランドの住居も主要なヨーロッパの住宅と似ていて、通りの左右に隙間なくマンションが連続して建てられている。バルコニーがついている部屋もある。おそらくポーランドの物価からするに家賃もそれほど高くないだろう。住んでみると落ち着いたいい町なのかもしれないと思った。料理もおいしいし、物価も安い。

ただポーランド語は大変だろうし、すぐに町にも飽きてしまうだろう。住むならやはりベルリンのような楽しい街がいい。

少し歩き疲れて、町の雰囲気にも軽く飽きたところで、友達と先ほどの大きな通りにあるビアガーデンにいくことにする。店員の勧めにそのまま応じてポーランドのビールを飲む。ここで飲んだビールもまたラガーだ。太陽の下ラガーを傾ける。

もうすることがなくなってしまったね、と友達と話した。日本への帰国を目前にひかえた僕は、これからどうするかとか、温泉や気軽食べられる日本食が恋しいだとか、そんな話をした。

僕は旅行に行く時は一人が多い。行く場所も、タイミングも思い立ったらすぐに決めてしまうし、とにかくなんでも一人で決めてやってしまう。一人で来るとこういう時間がとても退屈になる。だから今回は友達と一緒でよかったと思う。このような見るようなものが無い町では特に。

ビアガーデンを離れ、また町を歩く。途中で大きなデパートを見つける。きれいで、涼しくて、そして世界中のどんな所にでもあるような退屈なデパートだ。僕達はそのデパートを素通りして、反対側へと抜けた。

反対側にはきれいなストリート伸びていた。そのままその道を歩いていると、外観が少しさびれたお店があるのに気づいた。ピエロギなんとかと書いてある。僕は少し中を覗いてみる。ピエロギ専門のレストランのようだった。安っぽい椅子やクロスのかかったテーブルが魅力的だった。こういう地元の人が集まりそうなところがおいしいと相場は決まっている。

お腹は空いてない。しかしピエロギ2,3個くらいは入りそうだったので、注文することにした。店員にピエロギが欲しいと言ったが、英語がまるで通じない。ドイツ語で同じことを言い直したが、それも通じない。

そこで友達が携帯でポーランドを検索してくれた。「豚肉」だの「牛肉」だといった言葉を引っ張りだしてきて、ようやく注文が確定した。

席で待つこと数分、ポーランド純度の高いピエロギが運ばれてきた。食べてみるとおいしい。味がどんなにおいしくとも、日に同じものを二度も食べるとそう簡単にそれ以上の感想はでない。

二度目のピエロギを頂戴したあとで、また腹ごなしに町を歩く。赤いレンガで建てられた協会、教会前で歌う人々、古いタバコ屋の日焼けした商品、車がぐるぐるまわるラウンド・アバウト、そんなようなものを見ながら町を散歩した。

太陽が気持ち傾いてきた。帰りのバスの時間は19時に出る。僕らの財布にはまだポーランドのお金がたくさん余っていた。いまは17時過ぎ。夕食の時間といえば夕食の時間だった。夕食を取るというのは旅を締めくくるにはあまりに順当な行為だ。

でも僕らは満腹だった。

昼にポーランドに着いて、それからすぐにレストランヘ行き昼食を取った。それから間食をはさみつつ、ビールを飲んだ。そしてまたすぐピエロギだ。17時にお腹がすくわけがない。しかし僕らは他にお金の使いみちも思いつかなかった。こうなったらくいだおれてやろうと我々は勇猛果敢にレストランへと入った。

ビーフ・ステーキとチキン・ウイングとチェコのビールを頼んだ。

このお店はサービスがよくて、ビールを頼むとつまみが三種類ついてくる。ハムとかピクルスとかそんなようなものだ。今の僕らには余計だった。でもなぜか手が勝手に伸びてしまう。

ビーフとチキンが運ばれてきた。そのボリュームたるや見るだけでもう満腹になるくらいだった。サイドにポテトもついている。ウェッジ・ポテトにかるくスパイスがまぶされているやつだ。僕のお気に入りだ。

チキンから挑戦する。甘辛のチリソースがかかっている。とてもおいしい。満腹なのに非常にうまい。

そしてビーフを食べる。ビーフにはごろごろとしたブラック・ペッパーの実がまぶされている。ぴりっと胡椒がきき、ソースもおいしいし、焼き加減もよい。

しかしなにぶん僕らは満腹だった。頑張って残さないように努力したが、お気に入りのウェッジ・ポテトを残したまま店を去ることになった。食べ過ぎの胃袋をかかえ、バス乗り場へ向かう。しかしまだお金が余ったままだ。ポーランドなんてそう頻繁にはこないだろう。いまこのお金を使わなければと、どこか使える場所を探した。スターバックスを見つけたので中に入るが、キャラメル・フラペチーノを買うには気持ちお金が足りなかった。それで今度はビール専門店に行きおしゃれなビールを一本買った。まだ余っていたのでキオスクに行き、ビールとラドラーを一本ずつ買い、おまけに板チョコを一枚買った。レジまで持って行きまだ余裕があったのでスニッカーズを追加した。それ全てをかばんに詰め込みバス停へと向かう。駅の近くのキオスクで残りの小銭をはたいてモナカアイスも買って、それを食べながらバスへと向かった。

 

バス停からベルリン行きのバスに乗り込み、シートに深く座り込んだ。歩き疲れていたし、なにより食べ過ぎていた。シートに腰を落ち着けると、これからベルリンに帰れると思うと少しほっとした気分になった。ベルリンも僕にとってはよその街だったのに、いつのまにか帰ると表現できる場所になっていたことに気づく。くだらない日帰り旅行だったけれど来て良かった。自分が住んでいる街を出ると、自分がどこにいるのかわかる。くだらない理由でもいいからこれからも旅に出よう。

旅行はきらいだけれども。